出版社/著者からの内容紹介
不透明な時代ほど、原点に返って物事の本質をとらえることが大切です。そこで、時代や分野に関係なく、普遍的なリーダーとしての心得やコミュニケーション能力の磨き方、部下の育て方などを、古今東西のエピソードを交えて考えてみましょう。
抄録(「電子書店パピレス」より)
1 責任者の三つの役割
松下幸之助翁は、「仕事は、自分一人でやろうと思ってはあかん。みんなの力を集めないと大きな仕事はできん。だから、仕事を部下に任せることが大事や。任せると部下はやる気を出して仕事をする。人間は誰でも自分が信頼されていると思うときに喜びを感じ、情熱を傾け、やる気を出すもんや。権限の委譲によって部下は成長する。わしは昔から体が弱くて自分ではできへんかったから、自然に部下に仕事を任せてやってもらうよになったけど、まあ、それがよかったんやな」と言い、責任者の三つの役割を語る。
一つ目は、自分のチームの仕事をやり遂げるという意味での責任者である。昨日入った新入社員でも、自分の仕事をやり遂げなければならないという意味では責任者といえるが、管理職はチームの仕事をやり遂げる責任者である。
二つ目は、新しい仕事を創り出すという責任である。自分が持っている仕事一〇〇のうち二〇を部下に渡せば、二〇自分の仕事に隙間ができる。その二〇で、責任者は新しい仕事を創造しないといけない。責任者一人ひとりが、そうやって新しい仕事を創り出すとき、会社全体が大きくなり発展するようになる。
三つ目は、いうまでもなく、部下を育てる、人材を育成するという責任である。
二つ目と関連するが、仕事を任せるということは、部下を育てるということになる。全体の仕事を仕上げたか、新しい仕事を創り出したか、部下を育てる努力をしているか、この三つの責任を感じながらきちっと実行しておれば、部下のほうも仕事を任せられて満足しつつ、責任者に心から敬意を表し尊敬しながら努力して向上していく。そういうことをしないと、徐々に部下から軽くみられるようになってしまう。
ところで、権限の委譲、つまり仕事を任せるということが大事だと言ったが、「権限を委譲しても、権威は委譲したらあかん。それがなかなか難しい。仕事を部下に任せると、時間もできる、偉くなったような気分にもなる」とも松下翁は言う。
部下が仕事をしているにもかかわらず、付き合いだと言ってゴルフに出かける。交際費を節約しろと言いながら、自分は夜ごと会社の金で飲み歩く。遅刻したらあかんと言いながら、自分は遅れてくる。約束を守れと言いながら、自分は守らない……。そういうことをすると、責任者として権威はなくなる。人間としてなすべきことをなす、なすべからざることはしない、そこに権威というものが生まれてくる。
2 今までの自分が捨てられるか
「名選手必ずしも名監督にあらず」に似た言葉が、ブラジルにもある。
いくら実績のある選手が指導しても、優れた指導になれるとは限らないから難しい。逆にさして名選手というわけでもないが、監督になってはじめて手腕を発揮する人もいる。選手としての才能と、監督としての才能は全く別のことなのである、とジーコは言った。
人を通して成果を上げるのは、自分一人で成果を上げるよりも何倍も難しい。
スポーツ選手と監督を考えてみるとよくわかる。選手のときは、自分さえやる気を出して努力すれば成果は上がる。ところが監督は、選手を育て、選手をやる気にさせ、その選手の活躍によって成果を上げなければならない。監督と選手では役割も違い、おのずから必要な資質も違ってくる。だから、名選手必ずしも名監督にはなれない。
ダイエー・ホークスのコーチだった高橋慶彦氏は、素質的には平凡だったが、現役時代は猛練習につぐ猛練習でトップバッターの座を獲得した名選手だった。
自分が教える立場に立ってみると、教える選手はみな自分よりも優れた素質を持っている。それなのに、その素質を発揮できないのがじれったい。自分がやったのと同じ努力をすれば素晴らしい選手になるのにと、つい「おまえはダメだ」と否定する言葉が飛び出してしまう。否定された選手は面白くないので反発する。
「私は無意識のうちに自分を肯定し、相手を否定するところから指導していました。そうではなく、まず相手を肯定し、そのうえで指導するのでなければ、成果につながらない」と反省している。
一方、巨人の川上監督は、現役時代は打つことだけに専念した個性的な四番打者だったが、監督になると今までの自分の流儀を否定して徹底したチームプレーを強調し、選手の長所・短所をうまく組み合わせて常勝集団をつくり出した。
川上監督は選手時代とは全く違った発想、つまり全く新しい発想によって名監督となったわけだ。
管理職になったら、川上監督のように現役時代の自分流でやろうと思わないことである。
それでは、ほどほどの仕事はできても大きな仕事はできない。一人よりも二人、二人よりも三人、全員の知恵を結集して、集団天才をつくり出すことが大切である。それが、凡人集団が天才集団に勝つ唯一の方法である。
著者について
太田 典夫(おおた のりお)
(株)アークコンサルティング社長。昭和15年生まれ。39年名古屋大学法学部卒業。某電機メーカーにて人事労務、組合幹部(執行委員)、プロダクトマネジャー、関連会社の経営指導などの実務を経験。55年コンサルティング会社(株)ジェムコ日本経営に入社、販売革新本部長を務める。63年(株)アークコンサルティングを設立、現在に至る。
メーカーをはじめあらゆる業種に精通、特に全社的な経営体質の改善や販売力強化を得意分野とする。
〈著書〉『売上目標達成のための販売管理システム』『顧客対応システムの創り方』『ルートセールス販売プロセス管理システム』『実践リストラ百科 いきいき会社はこう創る』『ミドル諸君! 会社を変える実力派のパワーとセンス』(以上、ビジネス社)、『リストラクチャリングをしたい会社の人が読む本』(ダイヤモンド社)『いい話のおすそわけ』(三笠書房)、『実力派ミドルの行動原則』(清話会出版)