出版社/著者からの内容紹介
「いい上司と思われたい。部下に嫌われたくない」と思うなら、部下のいいなりになればよい。しかし、心を「鬼」にして部下を指導しなければ、組織は機能しないし部下も育たない。
上司としての心構え、行動スタイル、そして部下の指導法など、強い上司、強い組織を作るための31の具体的方法。
抄録(「電子書店パピレス」より)
はじめに
駅周辺にうずくまるホームレスの人々の数が、このところ増えている。その姿を見て、あなたは何を感じるだろう。私は、「いつか自分もあのように……」と、人ごとではなく思う。今は小さい会社の社長だが、歯車が一つ狂えば、会社を失い、財産を失い、家族を失って路傍《ろぼう》にたたずむ人となる。
敗北は悲惨である。絶望の影が心をおおい、挽回・復活の気力まで削《そ》いでしまう。ああなってからでは、もう遅い。すべてを失ってからでは手遅れだ。そう思って、ついつい路上の人々から目をそらす。
あなたも、同じではないだろうか。
会社に身を置く人は、たとえ世界に名を知られた大企業に勤める人でも、危うい綱渡りをしながら歩いている。一歩足を踏み外せば、奈落《ならく》の底だ。あなたも、私も、誰が、いつ落下しても不思議はない。それが日本の現状だ。いや、サラリーマンの時代を超えた宿命なのだ。
人みな危機の線上を歩きながら、何とか歯車が噛み合っているおかげで、今日という一日を無事に過ごせたにすぎない。
会社という組織は、日々、生死を賭《か》けた戦いを戦っている。その目的は、勝つことであり、負けないことだ。会社という組織に身を置く人も、この目的に向かってひた走らざるを得ない。誤解を恐れずに言えば、まさに“優勝劣敗”の世界であり、強い者が勝ち、弱者は敗れる。強くなければ、存続することが不可能なのだ。
この本は、組織の中で特に厳しい立場にいる中間管理者、経営幹部の皆さんに、どうすれば強くなることができるかの“指針”を示そうとして書き下ろした。まず、あなたの人間としての全体を見直す。ついで、ともすれば惰性に流れ、これまで大過なく過ごせたことで、ふやけて弱体化しているあなたを鍛え直す。その具体的方法を、三十一の章に盛り込んだ。
上司のあなたが強くなれば、部下を強い社員に育てることもできる。また、会社も強くなる。上司の強さ、弱さが、会社という組織の生死を分ける。だとすれば、上司が強くなることは、当然のことながらその責務の第一条件なのである。
平成十二年 一月
染谷和巳
「一頭のライオンに率いられた百頭の羊の群は、一頭の羊に率いられた百頭のライオンの群に勝つ」
(マキャベリやナポレオンが好んで口にした西欧の諺)
*本書の登場人物や団体名は、一部仮名としました。
第一部
社員の意識を高める
1章――社員と社長の意識は、これだけ違う
●社員のやさしい行動、社長の冷たい心
会社の帰り道、社長が二人の社員と談笑しながら歩いていた。一人は部長で一人は係長。歩道の真ん中に子供がひっくり返って大声で泣いていた。社長は通り過ぎた。二人の社員は「どうしたの」と言い子供を助け起こした。子供は遠くを見た。視線の先に母親がいた。母親は、二人の社員に頭を下げ小走りで近づいてきて子供を叱りつけた。
社長は、社員にも自分と同じように知らん振りをして通り過ぎてほしかった。二人の社員が足を止め「どうしたの」としゃがみ込むのを見て、「二人とも甘いな」と少し苦《にが》い気持になった。
二人はやさしい人たちである。困っている人がいたら力を貸してあげる、弱いものは助けてあげるというあたたかい心を持っている。それが行動に現れた。
では、道の真ん中にひっくり返って泣きわめいている子供は困っている人か、弱い人か。自分のわがままを通そうと親を手こずらせている強者である。母親はこのたち悪《わる》を教育している最中である。「あなたのわがままを私は認めないし、他の誰もあなたの味方をする人はいませんよ。それがわからないなら、そこでいつまでも泣いていなさい」と突き放して遠くから見守っていた。子供が降参して自分で立って歩いてくるのを待っていた。その教育を二人の社員が台無しにした。
社長は冷たい人か。いや、もっと前を歩いていた商店の親爺《おやじ》さんも買物帰りのおばさんも子供を見たが、声を掛けずに笑って通り過ぎている。社長やこの人たちは、ここで子供に声を掛け、助け起こすことは子供のためにならないことを知っている。二人の社員は自分にも子供がいるがそれを知らない。たぶん自分の子供にも同様にやさしくしているのだろう。
この例は社長の意識と社員の意識の違いを示している。
社長は困っても誰も助けてくれる人がいない立場にいる。この立場にいると、「人は強くなければならない」と痛切に思う。人(社員)は他人に頼ることなく何でも自分で考え自分で行う独立不覊《ふき》の力を養うべきだと思う。そのため甘ったれる人、弱音を吐く人、自立できない人に対しては「許すな、逃げるな、過ぎるな!」(ある会社の社是)と冷厳な態度で接する。これが社長の意識。
社員は上に頼る人がいるので温厚な意識になる。全責任を負うことはないので気楽な立場にいる。みんな仲よく力を合わせてやっていくのが一番と思う。仕事を抱えている部下がいれば手伝ってあげる。「大変だろう」と仕事を減らしてあげる。部下が泣きついてくれば、部下の能力不足、努力不足を責めることなく、慰め、いたわり、励ます。これが部長や係長の意識。
私は社長を十年以上やって社長の意識になったが、以前管理者だった時はこの部長や係長と同じ意識で、社長の言うことなすことに抵抗を感じていた。社長の言動が納得できずにやる気をなくしたことがあるし、「社長は冷たい」と文句を言ったこともある。立場が変われば意識も変わる。社員は社長ではないのだから、一概に社員を責めることはできない。しかし、幹部社員が社長の意識と隔絶した意識を持ち続けることが、いいわけはない。
*この続きは製品版でお楽しみください。
著者について
染谷 和巳(そめや かずみ)
昭和16年東京生まれ。東京教育大学(現筑波大学)卒業。出版社、社員教育機関勤務を経て、昭和63年から人材育成会社 (株)アイウィル代表取締役社長。上司としての考え方や行動の仕方、部下の指導法など、幹部教育の第一人者として活躍中。
著書に『何か必ずやる人』『上司として、これができなければ辞表を書け!』『社長に評価される上司になる本』など多数。特に前著『上司が「鬼」とならねば、部下は動かず』は各方面で大反響を巻き起こし、45万部のベストセラーとなった。