出版社/著者からの内容紹介
45万部のベストセラー、『上司が「鬼」とならねば部下は動かず』の第二弾。今回は上司と部下との人間関係を、「強い組織、強い会社を作るためのチーム作り・組織論」の視点から考察していく。
「著名な経営評論家センセイが時流に迎合して、口当たりのいい文言を並べた類書とは一線を画していることは、間違いない」(「新潮45」)と評された切れ味と迫力は、ますますパワーアップ。
また本書の巻末には、前著『上司が「鬼」とならねば部下は動かず』の中から、「鬼」のエッセンスを伝える名言を抽出し、「鬼の訓戒録」として収録。
抄録(「電子書店パピレス」より)
はじめに
事件だった。
NHKのディレクターが、私の本を、テレビの番組で紹介すると言ってきた。「宣伝になっちゃうじゃないですか、公共放送なのに」、そう尋ねると、「これは社会的事件です、事件は名前を出して報道するのが常(じよう)道(どう)です」という答えである。
平成十二年二月にプレジデント社から刊行された『上司が「鬼」とならねば、部下は動かず』は、ビジネス書で四十六週連続ベストテン入り(トーハン調べ)、今では四十万人近い人がこの本を読んでくれている。この種のビジネス書では、かつてなかったことであり、“事件”だと言うのである。私や私の会社にとっては事件であり、プレジデント社やこの本を手がけた書籍編集部の天野恵二郎担当部長にとっても、やはり一つの事件だったろう。しかし、これが“社会的事件”だとは、正直なところ思っていなかった。
本が出て間もなくのことである。北海道の自衛隊に勤務する二十二歳の三等陸曹から、次のような手紙をもらった。
「自衛隊の数ある教範の中にも、上司のあるべき姿がこれほど快活にわかりやすく示されているものはありません。私は、若いやんちゃな部下に手を焼いていますが、これからこの本を繰り返し読んで、指導書として活用していきます」
この一通の手紙だけで、もう十分だった。この人が本を買って読んでくれただけで、この本を書いた意義があった。これで「おしまい」でいいと思った。今思えばこれが事件の始まりだった。
「日経ビジネス」の書評を皮切りに、新聞や雑誌が続々と批評を載せ、特集記事が何本も作られることになった。ごくまれに皮肉や否定的見解に傾いたものもあったが、大半が肯定・推奨の論調であった。月刊誌の「新潮45」は「著名な経営評論家センセイが時流に迎(げい)合(ごう)して、口当たりのいい文言を並べた類書とは一線を画していることには、まちがいない」(平成十二年十一月号)と評してくれた。
娘に、卒業した学校の先生から送られてきた手紙。「お父さんの本、すごいことになりましたね。理事長が、いろいろな書評を私たちに見せてくれるので知りました」。こう言われて、「すごいことなのだ」という実感が少しずつ湧(わ)いてきた。こうして一年の月日がたち、「そうか、これは事件だったんだ」と気づかされたのだった。
「なに、不況だから売れたのさ。高度成長期やバブル期だったら、こんな本は相手にされないよ」と言う人がいる。私もそう思う。二十五年間、同じことを一貫して言い続けている私が、その体験から言うのだから間違いない。経営者や幹部の危機意識が、この本を手に取らせたのだ。「このままでいいのか、どうにかしなくてはいけないのではないか」という不安感が、“鬼”を求めさせたのだ。また、部下を思うように動かせない若手管理者が、“鬼”に何か問題解決のヒントがあるかもしれないと感じて買ってくれたのだ。“事件”といっても、単に運良く時期を得ただけである。
私はこの“事件”で、鬼が復権したとは思っていない。
敗戦の焼け跡に立ち、多くの人が「鬼になる」と誓った。弱音は吐くまいぞ、どんな困苦にも耐えてみせる。空腹や疲労ごときに負けはせぬ、命ある限り前へ進む……。戦争で生き残った人々は自ら先頭に立ち、休まず寝ずに働いた。歯を食いしばり、必死の形(ぎよう)相(そう)で、黙々と道を切り開いた。こうして鬼となった人々の腹の中から、日本の経済復興の槌(つち)音(おと)が鳴り響いた。
どこの会社にも鬼の社長、鬼の上司がいた。鬼は部下を厳しく育てた。部下は猛烈社員となって会社の発展に寄与した。日本は奇跡の復興を遂げ、経済大国になった。
あの時から六十年近くの歳月が流れた。初代の鬼は、役目を果たして去っていった。二代目の小鬼も現役を退きつつある。いつの間にか会社から鬼の姿が消えた。あちらこちらに散在し、まだ絶滅はしていないが、影が薄い。汚(よご)れ役を嫌(いと)わず、強く、厳しく、心の芯(しん)のあたたかい指導者がいなくなったのだ。
それに代わって“弱い、甘い、冷たい”指導者がふえた。一般社会にびっしりと根を張った日本独自の“民主的意識”が、「それでいいんだ」と後押しした。下にやさしい上司が、指導者の鑑(かがみ)になった。会社の経営者と幹部は、みな“仏”になった。不況の今、少し困った顔をしているが、「下にやさしく」という信念は揺らいではいない。
こうした信念は、一冊本を読んだぐらいでは変わらない。「そうかな、こんな考え方もあるのかな」と思う程度であり、「よし、鬼にならねば」とは、なかなかならない。よって、鬼の復権は、いまだ“道遠し”である。
そこで続編ともいうべきこの第二作を書くことになった。より多くの人々に、「上司は鬼であるべし」に頷(うなず)いてもらうために、前作の説明不足を補い、わかりやすい例をあげて理解を求めた。もちろん、「また同じことを言っている」という批判がくることは覚悟している。しかしながら、主張すべきことは何度でも繰り返し主張することによって、やがては鬼の上司の復権がなると私は信じている。
平成十三年 盛夏
染谷和巳
「一頭のライオンに率いられた百頭の羊の群は、一頭の羊に率いられた百頭のライオンの群に勝つ」
(マキャベリやナポレオンが好んで口にした西欧の諺)
*本書の登場人物や団体名は、一部仮名としました。
第一部 鬼になれる人、なれない人
1章――鬼の上司か、仏の上司か
●なぜスポーツ界で、仏の指導者が成功するのか?
指導者は鬼であるべきか仏であるべきか、いろいろな場で論じられるようになった。私は“鬼派”の先兵と見なされている。“鬼派”と指差されることに不満があるわけではないが、“仏派”の言い分のなかにあまりに現実離れした空論が目立つので一言申し述べる。
会社のなかでトップに近い人ほど鬼派であり、「鬼であるべし」「指導者は鬼の部分を持たねばならない」という考え方に賛同共鳴する。この考えに不快な顔をし「納得できない」と言うのは、学生や若い社員、戦後教育の申し子とも言うべき四十代、五十代の民主的おじさんたち、それと評論家や大学の先生など知識人と呼ばれる人である。
曰(いわ)く。「人は誰でも能力と無限の可能性を持っている。それを引き出すのが上司の役目。女子マラソンの金メダリスト高橋尚子を育てた小出監督はほめて育てた。叱らなかった。部下のいいところを認めてほめれば、部下は能力を伸ばしていい仕事をする」
「上司の言いなりになる部下は人材にならない。命令によって部下を動かすマネジメントでは企業が欲する人材は得られない。自分で考え、自分で能力を伸ばしていく自立型の人材を育てたいなら、上司は上からものを言うのではなく、部下を主役に立てて、部下に助言し、部下を援助する役割に徹すべし」
また「部下がのびのび働くことができる環境をつくれ」「部下の意見に耳を傾けよ」「部下の個性を尊重せよ」と言う。
仏派のこうした主張の論拠は、どうやらスポーツ界にある。「こうしろ」「ああしろ」と命令し、意に添わなければどなりつけるスパルタ式の指導では、優秀な選手は育たない。選手の特性を理解し、その選手に合った指導ができなければならない。欠点には目をつぶって長所を伸ばす。失敗してもそれを責めてはならない。「なぜ失敗したのか、どうすればできるか考えてみなさい」と自分で考えさせる。自分で答を出せるようアドバイスする。成功したらほめ讃(たた)え、「君ならまだ上に行ける」と励ます。このように、選手の個性と自主性を尊重した指導をすれば優秀な選手が育つ。
たしかにそのとおりだと思う。スポーツで一家を成す人は、いわばその道の天才だ。凡人が寄り集(つど)う一般の会社とはわけが違う。それに、スポーツで頂点を極める選手は十代、二十代の概して若い人たちである。また、スポーツ選手は専門家だ。球を投げる専門、打つ専門、走る専門、泳ぐ専門である。その専門能力を突出させるには、ほかの欠点など構っていられない。時間がない。その能力を最大限に伸ばす指導法が求められる。すぐキレる狂暴な性格だろうと礼儀知らずだろうと、気分よく高い意欲で練習に打ち込ませなければならない。
このような指導をすれば当然選手の自己責任の範囲が広くなる。チームプレーの場合、その時どう動くのがベストか判断できなければならないし、調子を落とした時は「どうすれば立ち直れるか」自分で考えて復調しなければならない。思考力、判断力がなければ優秀な選手になれない。そこで指導者は質問して本人に考えさせ、考える習慣、考える能力をつけさせるやり方をする。
この指導法によって、オリンピックでメダルを取る選手やプロスポーツの一流選手が数多く誕生した。ならば会社の人材育成にも、これは応用できる、と先生方は考えた。
*この続きは製品版でお楽しみください。
著者について
染谷 和巳(そめや かずみ)
昭和16年東京生まれ。東京教育大学(現筑波大学)卒業。出版社、社員教育機関勤務を経て、昭和63年から人材育成会社 (株)アイウィル代表取締役社長。上司としての考え方や行動の仕方、部下の指導法など、幹部教育の第一人者として活躍中。
著書に『何か必ずやる人』『上司として、これができなければ辞表を書け!』『社長に評価される上司になる本』など多数。特に前著『上司が「鬼」とならねば、部下は動かず』は各方面で大反響を巻き起こし、45万部のベストセラーとなった。
第1部 鬼になれる人、なれない人
第2部 トップの指導力
第3部 人材を育成する
第4部 後継者の選び方
第5部 意思統一の原理・原則
第6部 サラリーマン意識と経営者の思想
*「鬼」の訓戒録