出版社/著者からの内容紹介
官僚主導の政策推進や「地方支配」、密かに続く慣習と権益、不明朗な特典……。日本官僚制のアキレス腱を衝く数々の新事実で描く霞が関の実態。
官僚機構の「症候群」を徹底取材で暴く、渾身のルポルタージュ!
抄録(「電子書店パピレス」より)
九四年三月下旬、取材班の専用電話が鳴った。
海上保安庁関係者と名乗る人物からだった。
「うちの役所が外郭団体を食い物にしている。不正をただしたいので話を聞いてほしい」
思い詰めたような声に「内部告発」と直感した。
記者が関西のある主要都市に飛んだ。JRの駅に近い喫茶店で、電話の主は、海上保安本部職員による外郭団体の財団へのつけ回しの実態を生々しく語った。その話をきっかけに取材を進めると、海のGメン、海上保安庁の幹部職員らが自分で使った飲食費の一部を同庁許可の財団法人「海上保安協会」(東京都中央区)の支部に肩代わりさせていたことが分かった。
協会支部は全国に百八ヵ所あり、飲食費のつけ回し額は一支部あたり多いところで年間約二百万円に上っていた。近畿・中国・四国地方にある複数の海上保安部関係者らの証言を総合すると、飲食費のつけ回しは十年以上前から恒常的に、しかも組織的に行われていた疑いが強くなった。
入手できた海上保安協会の複数の支部の内部資料には過去三年間の数字が克明に記載されていた。
九三年八月末には、管区海上保安本部の本部長らが妻を同伴して私用で管内を訪問した。観光地巡りの際、ホテルでの飲食費やタクシー代など計約十一万七千円かかったが、その全額を協会支部に肩代わりさせていた。
この支部の年間収入は約四百万円で、一回の支出としては高額だったため、六万円と五万七千円の二回に分けてホテルに支払った。協会の「支出伺書」には、「本部長視察の際の諸経費」名目で飲食店六万三百七十円の支出を認める支部幹部の印鑑が押され、その翌日、この支部あてに発行した飲食店が同額を受領したことをを示す「領収書」が添付されていた。また、残りの五万七千円については、「全国海難防止運動の諸経費に助成」の名目で同様の処理がされていた。
また別の協会支部の場合、管区本部長が九三年五月中旬、視察に訪れた際、保安部が接待として使った料理屋やクラブでの飲食費約十四万円のうち五万円を支部が肩代わりしていた。資料には、料理屋とスナックでの飲食代金のうち、
「官負担分二万二千五百円(会議費二千五百円×九人)、職員六万八千円(八千五百円×八人)差し引き残四万九千六百円」
と書かれ、その残金を協会支部が負担したことが記されていた。この支部の経理担当者は、
「飲食費のつけ回しは十年以上前から続いている。協会の会計監査を逃れるため、保安思想普及費や海難防止活動費といった名目で支出していた」
と証言した。別の支部の関係者も語る。
「年度末監査で東京の本庁から各地の保安部に役人が毎年来るが、その接待費を協会支部で持つことになる。うちの支部は飲食費のほか、おみやげ代まで負担させられた。役人の陰湿なやり方は許せない。約五百万円の年間収入のうち人件費など正規の支出は約三百万円。それ以外のほぼ全額が本庁や地元海保の幹部らの飲食費などに充てられている」
さらに、別の拠点都市の協会支部関係者は、
「各支部の担当者とよく情報交換するが、協会へのつけ回しは全国どこの支部でも行われている。ひどいところは、海上保安本部の職員が、協会の帳簿を管理し、勝手に現金を引き出している。協会の支部は、役人の飲み食い代を捻出するためにつくられたようなものだ」
と打ち明けた。
飲食費の肩代わりだけではない。海保職員のレクリエーション費用として毎年「福利厚生費」名目で十万円を保安部に支払わされていたところや、保安部の職員が使うポケットベルの使用料(月二千円)まで毎月負担させられていた協会もあった。
また、各支部とも少ない予算の中からこうしたつけ回し費用を捻出するため、職員のほとんどは昇給もないまま働かされていた。毎年春の総会時期に年会費がどっと振り込まれるため、総会前の数ヵ月間は給料さえ支給できなくなることもあり、不正支出のためにただ働きさせられているとの不満の声も出ている。
公益法人を隠れ蓑にするのは、官庁の「会議費」の予算枠を使えば、会計検査院にチェックされてしまうためだ。そこで、監督する業界が出費するチェックの甘い公益法人に「金銭援助」してもらっているという構図である。