出版社/著者からの内容紹介
以前の全盛もどこヘやら、スター不在といわれる今の宝塚歌劇。今回は元男役の付き人を務めていたファンクラブ幹部の話を元に、ある一人の女性が宝塚に目覚め、ハマっていく様子を小説風に紹介。宝塚の素晴らしさだけではなく、ファンクラブ内部のしくみ、幹部さんの栄光と苦悩もこれで明かされる! 緊急レポートとして「宙組・姿月あさと退団〜その後の宝塚」も追加。やっぱり宝塚から目が離せない!
抄録(「電子書店パピレス」より)
「綾ちゃん、花組はダンスがすごくダイナミックでかっこいいんよ。宝塚は四組あるけど、どれもそれぞれ個性があるねん。演目も、その個性にあわせたようなものがくるし、それが自分の目で見ても納得できたらかなりの通やね」
「宝塚を観劇するための基礎知識」を聞きながら大劇場の前まで来ると、二、三人の女の人が立ってるのが見えた。不思議なことに、全員がチケットのようなものを持って黙って立っている。綾はその雰囲気に異様なものを感じて、幸恵に耳打ちした。
「ねえ、おばさん、あの人たち何してるの?」
「ああ、あれな」
グッズのほうに目をやっていた幸恵は、その女の人を見ると、にやっと笑った。
「あの人らはな、『さばき』っていうて、当日になって余ったチケットを買ってくれる人を探してるんよ。まあ、普通やったら声出して『チケット余ってまーす』とか『チケットいりませんか』とか言うんやろうけど、ここはダフ行為が禁止されてんねん。そやからまあ、混乱を招かんように静かに売ってるわけよ」
「でも、買う人なんかいるのかな……?」
「綾ちゃん、何言うてんの。新人公演なんか、みんなチケットの人気が高くて取られへんからさばきのチケット買いに来るんよ。それどころか、自分でお金出して『買います』のポーズを取る『さばきのさばき』も出るんやから。綾ちゃんはまだまだ宝塚のすごさがわかってないね」
とにかく、何もかもはじめてみる世界に綾は圧倒されっぱなしだった。ほかのファンの人たちも、髪の毛をタカラジェンヌさながらに茶色に染めたり、短く刈り上げてまるで男役のような人もいる。そういう人たちはたいてい洋服もブラウスにスラックス、といったシックな装いなので、ロビーをウロウロしていなければ、綾のような初心者は男役スターと見間違えてしまいそうだった。
特に娘役のファンと思われる人たちは、髪の毛をこれまた茶色に染めてフリルのたくさんついたピンクハウス系の洋服を着ている。それでも、体格ががっしりしている人がなぜか多いので、娘役ファンに関しては、見間違えることはなさそうだった。それにしても茶色の髪の毛が珍しいなか、堂々と明るい茶色に染めている姿は、やはり周囲の目を引いた。
次にビックリしたのは、ロビーに並ぶ女の人の列である。先頭には籠を持った女の人が、お金と引き換えに名前をメモしている。どうやら何かを売ってるようだが、それが何なのか判断がつかない。そんな綾の様子を見て、幸恵が教えてくれた。
「綾ちゃん、これはな、次の公演のチケットを予約してはんねん。みんな自分のお気に入りのスターさんのファンクラブのところに並ぶんよ。そやから、やっぱりトップスターが人気高いやろ。このチケットの量で、各ファンクラブの力関係がはかれるんよ。まあ基本的には生徒さんの実力の順がそのままファンクラブの順番になるんやけどね」
「私もファンクラブ作ったらあそこでチケットの予約とか受けるのかなぁ。なんか、すごいしんどそう……」
「うーん、そやけど、そういうことに向いてる人はめっちゃやりがい感じると思うよ。綾ちゃんが自分に向いてないと思うんやったら『外付き』やなくて『中付き』になったらええねん」
「中付き?」
「そうや、ファンクラブの仕事はこういうふうにチケットの予約、確保、あとファンクラブの会報を作ったりお茶会の手配をしたりするいわゆるファンクラブ関係の外付きの仕事と、じかにジェンヌさんの身の回りのお世話をするマネージャー的な役割の中付きの仕事と、大きく分けて二つあるんよ」
「……どっちにしても大変そう。二十四時間その生徒さんといなきゃいけないのかな?」
「そんなことしたら、その生徒さんも息が詰まるわ。まあ始めてから考えればいいけど、つかずはなれずが一番いいって言うよ。そやけど自分のひいきにしてる生徒さんがどんどん上へ上がっていくのは嬉しいやろうなあ。さ、そろそろ開演やわ。席につこう」
その日、宝塚歌劇を初めて観劇した綾は、この日を思い出の日とすることにした。それくらい強烈で、忘れられない体験だったのだ。
女でありながら男装し、男を演じることで生まれる中世的な魅力。そしてあくまでフィクションの世界を追求し、フィクションなりのリアリティを観客に提供するエンターテイメントは、いままで綾が体験したことのないものだった。
〈この世界にすこしでも近づけるんなら、ファンクラブやってみたいな……〉
いつしか綾は、草笛怜へのファンレターの返事を心待ちにするようになっていたのだった。
第1章 緊急レポート! 宝塚歌劇団に百周年はあるか!?
第2章 【小説】ファンクラブ・幹部への花道
第3章 元幹部が語る! 宝塚アラカルト
第4章 【小説】あるゲイバーママの闘い
特別付録・宝塚歌劇 2000年公演スケジュール